公開日: 2025.04.09 更新日:
2025.04.09
リゾート型ゴルフ場のインカム活用最新ガイド:業務効率化と顧客満足度向上の鍵
リゾート型ゴルフ場運営において、スタッフ間のスムーズなコミュニケーションは業務効率と顧客満足度に直結する重要な要素です。広大なコース内で多様なスタッフが協働するため、迅速かつ的確な連絡手段が欠かせません。本コラムでは、リゾート型ゴルフ場特有の通信環境の課題から最新のAIインカムまで、包括的に解説していきます。
ゴルフ場特有の通信環境とその課題
広大な敷地と複雑な地形がもたらす通信の壁
日本には2,000以上のゴルフ場があり、その多くは広大な敷地と起伏に富んだ地形を持っています。このような環境では、従来の通信手段に以下のような課題が生じます:
・地形による電波障害:丘陵地や雑木林によって電波が遮断される
・距離の問題:コース全体をカバーするには高出力の機器が必要
・建物間の連携:クラブハウス、レストラン、メンテナンス施設など複数建物間の連携
・天候変化への対応:突然の雷雨などの緊急事態における迅速な連絡
日常業務に影響するコミュニケーションの断絶
ゴルフ場スタッフの日常業務では、以下のようなシーンで通信の問題も発生しています:
・フロントとキャディの連絡不備によるお客様の待機時間増加
・コース上の緊急事態(体調不良、事故など)の迅速な対応の遅れ
・メンテナンス作業と来場者の動線調整の困難さ
・スタッフシフト交代時の引き継ぎミス
リゾート型ゴルフ場で使われる通信手段とその限界

業務用無線機(簡易無線)の活用状況
多くのリゾート型ゴルフ場では、携帯型の業務用無線機(トランシーバー)をスタッフ間連絡の主軸としています。1~5Wのデジタル簡易業務無線機であれば見通し数km(オープンスペースで1~3km、条件が良ければ4~5km)の範囲をカバーでき、広いコース全域でも通信可能なケースが多いためです。フロントとキャディの連絡、キャディ同士の情報共有、コース管理スタッフとの連携など、広範囲に散らばるスタッフ間のリアルタイムな連携に不可欠なツールとなっています。
移動中でも即座に通信できる手軽さから、安全管理や進行確認、緊急連絡まで幅広く活用されています。導入実績が多く操作に慣れているスタッフが多いことや、携帯電波の届きにくいエリアでも独立した通信網を構築できる点、一斉同報通信が容易である点が大きな利点です。大規模リゾートでは、部門ごとにチャンネルを分けて運用したり、より広範囲をカバーできる中継器を設置したりしている場合もあります。
しかし、山や建物などの障害物で通信が途絶える、悪天候下での通信品質が低下する、混線によるメッセージの聞き逃しが発生する、音声のみの通信で記録に残らないといった限界点も抱えています。また、無線機は導入コスト、バッテリー管理、故障時の修理・交換、免許更新(必要な場合)などの手間とコストがかかることも課題となっています。
IP無線機と特定小電力トランシーバーの併用
通常の無線機で通信距離が足りない場合には、LTEなど携帯電話網を利用するIP無線機が導入されることもあります。見た目や操作感は従来機とほぼ同じですが、電波ではなくインターネット経由で通信するため、携帯電波さえ入ればコース外や遠隔地とも交信可能なのが特徴です。ただし山間部のリゾートゴルフ場では携帯圏外エリアも残っており、その場合IP無線は使えないデメリットもあります。
一方、クラブハウスやレストラン内など、比較的狭い範囲での連絡には免許不要の特定小電力トランシーバー(出力10mW程度)が使われる例も見られます。フロントデスク内のスタッフ間連絡、レストラン内のスタッフ連携、練習場とフロント間の連絡など、近距離での通信に適しています。持ち運びしやすく軽量ですが通信可能距離は数百メートル程度のため、主に屋内や近距離専用の補助的な連絡手段として位置づけられています。
構内PHSの行き詰まりとスマートフォンの台頭
2023年の公衆PHSサービス終了に伴い、リゾート型ゴルフ場でも構内PHSの維持が困難になっています。大規模な施設では自営の構内PHSシステム(内線電話の延長線上)が残っている場合があり、主にフロント、レストラン、事務所など屋内施設間の連絡に使われています。内線番号で直接呼び出せる点や、比較的安価な通話コスト(システムによる)が利点ですが、端末製造の減少と価格高騰、修理部品の欠品、アンテナ設備の老朽化といった課題に直面しています。新規導入は少なく、老朽化によるリプレイス時期に他のシステムへ移行するケースが増えています。
こうした中、スタッフ全員がスマホを所持するようになった近年、スマートフォン対応のインカムアプリ(トランシーバーアプリ)にも注目が集まりつつあります。2010年代から病院・飲食・ホテル業界などではスマホを使った音声連絡システムが普及し始めましたが、ゴルフ業界ではまだ認知度が低く導入例は限定的です。しかしスマホトランシーバーは継続的なアップデートが可能で陳腐化しにくく、社内DX時代の新たな音声連絡手段になり得ると期待されています。
複数ツールの併用が一般的
リゾート型ゴルフ場では、これらのツールを組み合わせて運用していることが一般的です。例えば、コース管理やキャディは無線機、フロントやレストランは内線電話や構内PHS、マネージャー層はスマートフォン(ビジネスチャット含む)といった具合に使い分けられています。固定電話(内線)やページングシステム(館内放送)も併用され、緊急連絡や広範囲への一斉周知といった場面で活用されています。こうした複数ツールの併用は柔軟性をもたらす反面、部門間の連携不足という課題も生み出しています。
リゾート型ゴルフ場の業務効率化を妨げるコミュニケーション課題

混線・ノイズによる連絡ミスと情報伝達の遅延
リゾート型ゴルフ場特有の広大な敷地、多様な業務内容、変わりやすい天候など、特有の環境がスタッフ間のコミュニケーションに独特の課題をもたらしています。アナログ無線機の場合、第三者に傍受されたり他の電波と混信したりするリスクが従来から指摘されています。同じチャンネルに複数が同時送信すると音声が混ざって聞き取れなかったり、周囲の雑音で指示を聞き間違えたりすることも業務上の支障となります。
従来型のトランシーバーは限定的なチャネルしか持たず、全員が共有するチャンネルでは不要な会話で回線が埋まりやすいため、重要な伝達が埋もれてしまうケースもあります。このような理由で連絡漏れや誤解が生じ、プレー進行状況の把握遅れによるスタート時間の調整ミスや、コース上のトラブル対応の遅れにつながっています。特に天候急変時の連絡不備は顧客満足度に直接影響を与え、予約変更情報の伝達遅延は業務全体の流れを乱す原因となっています。
応答の遅れと通信のタイムラグ
広い敷地ではスタッフ同士が離れているため、連絡を受けてから現場対応に当たるまでタイムラグが発生することもあります。電波の届かない場所にいる間の呼び出しに気づけなかったり、無線が混雑して発言の順番待ちになると即応性が下がります。また全員が常に無線機を携行しているわけではない現状では、機器を持たないスタッフとの間で連絡ギャップが生じることも問題です。
たとえば、キャディが重量のある無線機をカートに置いたまま離れて作業していると、その間に呼び出しを受けても応答が遅れる・できないという状況が発生します。また、一部の部署にしか無線機が行き渡っていないと、そうでないスタッフへの伝達に人手を介する分だけ遅延が生まれてしまいます。
記録に残らない口頭コミュニケーションの弊害
シフト交代時の引き継ぎ漏れや、「言った・言わない」のトラブル発生は、口頭のみのコミュニケーションが抱える大きな問題点です。重要事項の聞き逃しによるミスは顧客サービスの質を低下させ、後からの検証が不可能なために同じ問題が繰り返されるケースも少なくありません。
口頭での伝達は、聞き間違いや情報抜けが発生しやすく、複雑な指示や状況(例:特定の木の枝が折れている場所)を正確に伝えるのが難しいという特性があります。また、誰が情報を受け取ったか、確認したかの把握も困難です。
リゾート型ゴルフ場向け次世代インカムの可能性

スマートフォンインカムアプリの革新的可能性
スマートフォンを活用したインカムアプリ(スマホトランシーバー)は、最近病院・飲食・ホテル業界などで普及し始めた新しい選択肢です。ゴルフ業界ではまだ認知度が低いものの、継続的なアップデートが可能で陳腐化しにくく、社内DX時代の新たな音声連絡手段として期待されています。
スマホトランシーバーは、従来の無線機・トランシーバーと同じ「グループ通話(チャンネル設定)」や「1対複数の通信」といった機能をすべて踏襲しています。最新のインカムアプリは単なる通話機能を超えた革新的な特徴を持ち、専用機器が不要で、Wi-Fiやキャリア回線を活用した安定した通信を実現します。
チャット機能との連携で文字情報も共有可能なため、複雑な情報や詳細な指示も正確に伝えることができます。最も注目すべき点は、通話内容の自動テキスト化で記録に残る機能です。これにより、後からの確認や情報の検索が容易になり、「言った・言わない」のトラブルを防止できます。また、既存のスマホを活用すれば初期コスト削減も可能です。
実用的な機能としては、発話内容の記録と検索機能による過去会話の振り返り、テキスト入力からの音声読み上げ(接客中の静かな情報共有)、遠隔地からの会話参加(本部との連携)、外部システム(予約システムなど)との連携などが挙げられます。
AIインカム導入事例に見る効果
業界最大手ゴルフ場運営会社での導入事例:GRAND PGM千代田カントリークラブ

業界最大手のゴルフ場マネジメント会社、パシフィックゴルフマネージメント株式会社(PGM)が運営するGRAND PGM千代田カントリークラブでは、各界のVIPをはじめ多くの顧客を持ち、「おもてなし」の心を大切にした質の高い顧客サービスを強みとしています。同クラブは顧客満足度のさらなる向上を目指し、次世代型インカムシステムを導入しました。
主な課題と成果:
・従来の無線機では音声が聞きづらく情報伝達が遅れていた問題が解消
・スタッフ間の情報共有がスムーズになり、顧客サービスが格段に向上
・部門間(フロント、プロショップ、レストラン、マスター室)の連携が強化
・緊急時の一斉連絡が可能になり対応時間が短縮
・会話履歴が記録されることでシフト交代時の引き継ぎミスが減少
「導入後は、スタッフ同士のコミュニケーションがスムーズになったことで、働きやすい環境づくりにもつながりました」と内山支配人は語っています。同クラブの成功事例は、PGMグループの他のゴルフ場にも順次展開される予定です。
ゴルフ場の業務シーン別・AIインカム活用法
フロントデスクの業務効率化
フロントデスクは顧客との最初の接点であり、情報のハブとしての役割を担う重要なポジションです。予約変更情報のリアルタイム共有は、顧客の到着前から最適な対応準備を可能にします。特に高級ゴルフ場ではVIP客の要望に迅速に応える必要があり、インカムによるスタッフ間の瞬時の情報交換がスムーズな対応を実現します。
「ショップで購入された商品をお帰りの際にフロントでお渡しする」といったプロショップとの連携も、顧客サービス向上に直結します。実際、GRAND PGM千代田カントリークラブでは、「フロントとプロショップがそれぞれ別の棟にあるため、連携しづらいという課題があった」ところ、AIインカム導入後は「フロントととてもスムーズに連携できるようになりました」と成果を実感しています。
キャディマスターとキャディの連携強化
キャディマスターとキャディの連携は、プレー進行全体をスムーズに運営するために不可欠です。プレー進行状況のリアルタイム共有により、スタート時間の調整や待ち時間の最小化が可能になります。天候変化に伴う対応指示も、インカムを通じて瞬時に全キャディへ伝達できるため、お客様の安全確保とプレー体験の向上につながります。
コース状況の報告と対応も迅速になり、「枯れた芝生があるホール」や「バンカーの状態が悪いエリア」などの情報をすぐに共有できます。テキスト履歴によるミスコミュニケーション防止も重要な利点です。「3組目のお客様が5番ホールで昼食休憩」といった情報が正確に記録されることで、シフト交代時にも情報が途切れることなく、一貫したサービスを提供できます。
コース管理と安全対策
草刈りなどのメンテナンス情報共有は、プレーに影響を与えることなく作業を進めるために重要です。危険個所の報告とプレーヤー安全確保も、インカムによるリアルタイムの情報共有で迅速に対応できます。
特に緊急時の対応体制構築においては、「コース上でアクシデントが発生した場合、一斉連絡ができるようになり迅速な対応が可能に」なることが大きな利点です。実際の導入企業からは「これまではスタッフが内線で個別に連絡していたため、時間がかかっていた」という問題が解決されたと報告されています。
防災・避難誘導においても威力を発揮するのが、履歴機能の活用です。「どういった状況でどんな対応をしたのかという履歴がすべて残るため、お客さまの怪我などの場合も救急隊員へ正確な情報を伝えることが可能」になります。これにより、緊急時の対応品質が向上し、顧客の安全・安心につながっています。
レストラン・売店との円滑な連携
食事の準備タイミング調整は、顧客の待ち時間を最小化し、満足度を高めるために重要です。特に「天候が変わったときなどに、レストランスタッフが進んでお客さまの進行予定をマスター室と調整することができる」ようになれば、サービスの質が大きく向上します。特別注文への対応や在庫状況の確認と対応も迅速に行えるようになります。
イベント時の連携強化も、大きなトーナメントやコンペなどの際のスムーズな運営に貢献します。特に接客中の情報確認においては、「接客中で聞き逃したりすることがあっても、音声連絡がテキストに残るため、あとから確認できる」という機能が非常に有用です。これにより、レストランスタッフが常に最新の情報を把握した状態でサービスを提供できるようになります。
まとめ
リゾート型ゴルフ場において最適なインカムシステムを選択する際は、施設の特性に合わせた判断が重要です。特に丘陵地や林間コースを持つリゾート施設では、通信の確実性と範囲を最優先に考え、広大なエリアをカバーできるソリューションを選ぶべきです。山間部の施設では電波状況の事前調査も欠かせません。
操作性の簡便さも重要な要素です。多様な年齢層のスタッフが無理なく使える直感的な操作性が求められ、音声だけでなくテキストなど複数の通信手段を状況に応じて選択できる多機能性も効果的です。特にGRAND PGM千代田カントリークラブの事例のように、「音声がクリアで聞き逃しが少なく、後からテキストでも見直すことができる」記録・振り返り機能は、シフト制の職場で大きな価値を発揮します。
最新のスマートフォンを活用したAIインカムは、音声認識技術やテキスト変換機能により、単なる通話を超えた業務改善効果をもたらす可能性を秘めています。
リゾート型ゴルフ場の規模、地形、顧客層、運営方針によって最適なソリューションは異なりますが、顧客満足度向上とスタッフの働きやすさという両面での効果を考慮した選択が、長期的な成功につながるでしょう。