音声を自動でテキスト化
 現場の可視化が進む、旅館のおもてなし

陣屋コネクト様

  • 宿泊
  • 業務効率化
  • システム連携
  • 情報共有
  • サービス品質向上
  • 100名以下

概要

1万坪の広さを誇る庭園に日本の自然が息づく、鶴巻温泉の老舗旅館 元湯 陣屋。ここに、お客さまへのさらなるおもてなしを追求すべく導入されたICTの仕組みがある。陣屋の経営変革のため、関係会社の株式会社 陣屋コネクトが開発した、旅館・ホテルシステム「陣屋コネクト」。Voytは、スマートフォンやタブレット端末を活用した社内SNSに、音声を文字としてテキスト化する技術を提供している。フィールドボイスインカムにより、スタッフのコミュニケーションで現場情報の可視化が進み、多彩で細やかな“おもてなし”を実現。高レベルな顧客サービスが、新たな価値を創出している。 ※本導入事例は、事業譲受前に東芝デジタルソリューションズ株式会社が取材したものです。

Before

タブレット端末とトランシーバを活用していたが、お客さまへの一流のおもてなしを充実させ、質の高いサービスを提供するため、さらなる生産性の向上を目指していた。また、お客さまとの会話の中から得られる貴重な情報を共有し、より良いおもてなしに生かせる仕組みを求めていた。

After

陣屋コネクトと「フィールドボイスインカム」を組み合わせることで、スタッフ同士のコミュニケーションが活性化し、業務の生産性が向上した。会話の内容は音声認識によって自動的にテキストとなり、情報が可視化された「フィールドボイスインカム」で、スムーズな情報共有と、蓄積されたスタッフの会話からさまざまな分析ができるようになった。新たに創出できたお客様と接する時間と、有益な情報を、今後の“おもてなし”に生かしていく。

導入の背景

情報共有の基盤づくりを決断

源頼朝の側近だった和田義盛公の陣跡に1918年に建てられた三井財閥の別荘「平塚園」として始まり、今も1万坪の広さを誇る温泉旅館として多くのお客さまから親しまれている鶴巻温泉 元湯 陣屋。明治天皇が宿泊するために、黒田藩が大磯に建てたものを三井家が移築した「松風の間」は、囲碁や将棋の対局で名勝負が繰り広げられる舞台としても有名だ。

この老舗旅館でお客さまに一流のおもてなしを提供するべく、顧客情報管理の基盤として開発されたのが、旅館・ホテルシステム「陣屋コネクト」だ。同旅館の代表取締役 社長であり、そのアプリケーションを外販する株式会社 陣屋コネクトの代表取締役 CEO and Founderでもある宮﨑富夫氏(現オーナー)が同旅館の経営を引き継いだのは2009年のこと。先代から事業を引き継いだ当時は、世界的な金融危機の真っただ中で、旅館経営は苦しい状況だったと振り返る。「当時は旅館が存続できるかどうかの瀬戸際でした。そこで、現場のスタッフにヒアリングし、課題を洗い出していったのです」。

宮﨑氏が考える最高のおもてなしとは「お客さまの期待を超えるサービスを提供すること」。お客さまと1回目の接点が最も重要であり、2回目はさらに期待を超える努力をする。当初、課題となっていたのが、過去の宿泊履歴を含めたお客さま情報がスタッフ間で充分に可視化・共有できていないことだった。またお客さまからの情報を裏方のスタッフに伝える際には、内線電話をかけたり、直接現場まで走って伝える必要があった。「お客さまに接する時間を十分に確保するために、裏方での無駄な作業を省いて生産性を高めるべく、全スタッフで顧客情報を共有できるIT化をしたい。」と大きく舵を切ることを決断。

導入の経緯

発話した音声も貴重な情報として活用する仕組みづくりへ

発話した音声も貴重な情報として活用する仕組みづくりへ

「陣屋コネクト」は初期投資を抑え、ユーザーとなる施設がサーバーの運用を自社で行わずお任せできる、クラウドサービスだ。当初、元湯 陣屋で利用するために開発された陣屋コネクトは、ホスピタリティが必要とされるサービス業にも活用できるため、現在では600施設を超える旅館・ホテル・ペンション・医療施設などが採用している。当初、元湯 陣屋では、お客さまとの会話の中で発生した情報を素早く共有できるよう、タブレット端末とトランシーバの両方を併用していた。「急ぎの情報はトランシーバで全スタッフに音声で共有し、テキスト情報として残すものは各スタッフがバックヤードで社内SNSに手入力で投稿していたので、効率という観点で課題がありました」と宮﨑氏。

この陣屋コネクトを開発したことで確実に情報共有が進んだ、と宮﨑氏は振り返る。しかし、トランシーバは何度も聞き直す無駄やノイズが大きいという使い勝手の問題があり、一方でタブレット端末も動きながらの入力が困難な上、帯の中から出し入れさせる手間など課題も多かった。スタッフの生産性をさらに高めるためには、音声データをうまく活用し、会話の内容が音声からテキストに変換され、自動的に情報共有できるような仕掛けが必要だったという。同時に「これまで捨てられていたトランシーバでのやり取りが貴重な情報として蓄積できれば、お客さまの期待を超える、さらなるおもてなしにつなげることができると信じていた」と宮﨑氏はその当時の思いを振り返る。

導入のポイント

現場の理想的な仕組みを、音声認識の技術で。

現場の理想的な仕組みを、音声認識の技術で。

現場を仕切る女将の宮﨑 知子氏は、音声入力による情報共有は年配のスタッフにも大いに役立つと考えていた。「本来、タブレット端末は閲覧するのに便利ですが、入力するには画面も小さく使いづらい部分もあります。話した内容がそのままテキストとして入力できる仕組みは、現場にとっては理想的で、夢のあるものでした」と女将は力説する。

そんな折に、社長である宮﨑氏の目に留まったのが、Voytが提供するAIインカムアプリ「フィールドボイスインカム」だった。「音声発話とその認識技術、そしてテキスト化やAI技術も含め、私たちが最高のおもてなしを可能にするための仕組みづくりに役立つことがわかったのです」と宮﨑氏。旅館業に適した言葉を専用辞書として登録できるなど、認識精度を高めるための仕組みが実装されていることも大きな魅力だったという。

そこで、音声をテキスト化し、情報共有を行う社内SNSに自動投稿できる仕組みをVoytと一緒に作っていくことを宮﨑氏は決断。実証実験を開始する。「現場に応用できそうな技術は他にもありましたが、まずは現場ですぐに活用できそうな部分から実装していこうと考えたのです」。

導入の効果

生産性向上とコスト削減に大きく貢献、おもてなしの強化にも

生産性向上とコスト削減に大きく貢献、おもてなしの強化にも

現在は、およそ30台のスマートフォンやタブレット端末にフィールドボイスインカムの音声認識アプリケーションをインストールし、スタッフ同士のコミュニケーション手段として活用されている。具体的には、スタッフが携帯しているスマートフォンやタブレット端末に向けて発話すると、その声がクラウド上のフィールドボイスインカムに送られ、音声認識技術によってテキスト変換される。同時に、発話された声は他のスタッフのスマートフォンやタブレット端末に届くことで会話できるという仕組みだ。もちろん、フィールドボイスインカムに送られた音声はそのままサーバー内に保管されており、いつでも聴き直しができる環境にある。

また、フィールドボイスインカムは陣屋コネクトと連携しているため、スタッフが陣屋コネクトの社内SNS機能に入力した文字は他のスタッフに音声で通知され、陣屋コネクトで行ったチェックイン・アウト、料理等のオーダーの操作はそのまま音声でも通知される。IoTとも連携し、タオル交換が必要な時や、温泉の温度が設定範囲を外れた時には、音声でスタッフに通知されている。さらには、スタッフだけではなく宿泊客の行動についても瞬時に共有される。宿泊客が自身のスマートフォンでチェックイン・アウト、ルームオーダーをした場合には、音声でスタッフに通知され、迅速な対応に役立てられている。

Voytは、イヤホンやマイクなど最適なハードウェアの選定からクラウドを経由することで発生しがちな音声遅延の解消、そして旅館内のネットワーク環境の最適化など、直面した課題をその都度クリア。現在は陣屋コネクトの社内SNS機能とフィールドボイスインカムを組み合わせて情報共有をしている。「今ではフィールドボイスインカムが現場に欠かせないものになっています。これがないと日々の業務ができませんし、もうトランシーバには戻れません」と女将はフィールドボイスインカムを評価する。また、常に改善を進めており、接客時に使う独特な言葉の辞書登録や、発話の仕方を工夫するなど、音声のテキスト化における精度も高めている状況だ。

実際にこれを利用している仲居の本田 有希子氏からも評価の声が上がっている。他スタッフとの同時発話となってもきちんと情報を受け取ることができ、万一の場合は録音されている音声を聴き直すことで情報が適切に伝わるようになった。「トランシーバも不要になり、お客さまに対しても違和感なくご対応できますし、コミュニケーションロスが大幅に減ったと感じます。音声自体も以前に比べてクリアになり、入力の手間が省けるためコミュニケーションも円滑になりました」と本田氏の評価は高い。

今回の効果については、何度も聴き直すといった行為がなくなったことで、生産性向上に大きく寄与していると宮﨑氏は評価する。ただし、一番の効果は「スタッフみんながタブレット端末や社内SNSに親しむようになったこと」だという。現場が慣れ親しんでいくことで、これらのさらなる活用も視野に入ってくると宮﨑氏は力説する。

Voytについては「長年培われてきた音声認識技術が活用できるのはもちろん、イヤホンなどハードウェアの選定やメーカーとの交渉など、私たちではできないことをサポートしていただいています。提案もバリエーションに富んでおり、旅館の立場に立って考えてくれる」と宮﨑氏の評価は高い。技術的な面では、音声や映像を活用する技術以外にも女将は注目している。「AIやIoTなど新たな技術に力を入れているだけでなく、生活の基盤となるさまざまな技術も豊富に持っており、とても魅力的です。私たちのような業態の企業と一緒に広めていくことで、サービス業とテクノロジーの垣根はもっと低くなるはず。また、大企業にありがちな対応の遅さがなくスピーディで、親身になって真摯に向き合う姿勢にも感動しました」と女将は高く評価する。

将来の展望

CRMとの連携と、フィールドボイスインカムのさらなる活用

CRMとの連携と、フィールドボイスインカムのさらなる活用

宮﨑氏は、今後については音声認識の精度をさらに向上させていきながら、得られた情報を生かすべくCRMとの連携も図っていきたい考えだ。外販されている陣屋コネクトにフィールボイスインカムの機能を加え、飲食や宿泊などホスピタリティが求められるサービス業へのさらなる展開にも取り組みたいと力説する。「見学にいらっしゃる同業者の旅館関係者からもフィールボイスインカムの評判はとても良く、実際に役立つソリューションだと感じていただくことが多い」と宮﨑氏はその可能性について言及する。

Voytと一緒に試行錯誤を重ねてきた宮﨑氏だが、共にビジネスを創るパートナーとして今後にも期待を寄せている。「日本のGDPにおける70%を占めているのがサービス業。生産性に課題があるサービス業全体を底上げする、そんなことをこれからも一緒にやっていきたい。Voytは、旅館のおもてなしや私たちの気持ちを理解し、私たちと動いてくれる、信頼できるパートナーです」と評していただいた。

このように、フィールドボイスインカムは、既にサービス業の現場で生かされ始めている。フィールボイスインカムはこれからも多くのサービス業に活用され、お客さまやスタッフの快適さをICTで支えていくだろう。

<COMPANY PROFILE>

会社名:株式会社 陣屋コネクト
設立:2012年4月1日
代表者:代表取締役 CEO and Founder 宮﨑富夫
本社所在地:神奈川県秦野市鶴巻北2-8-24
事業概要:ホテル・旅館・レストラン向けクラウドアプリケーション開発
URL:http://www.jinya-connect.com/