2024.12.17
特定小電力トランシーバーの限界とは?旧スプリアス規格の規制と新たな選択肢
リアルタイムな情報共有が業務の効率と質を左右する現代において、特定小電力トランシーバーは様々な現場でコミュニケーションツールとして活用されていました。飲食店でのホールと厨房の連携や、小売店での従業員間の連絡、工場での作業員の情報共有など、多様な業務シーンで活躍するこの機器が、スプリアス規格の規制により大きな転換期を迎えようとしています。本コラムでは、特定小電力トランシーバーの基本的な特徴から今後の課題、そして新たなコミュニケーションツールの可能性まで、現場管理者の皆様に必要な情報をご紹介します。
特定小電力トランシーバーの基礎知識
特定小電力トランシーバーは、小売店、飲食店、工場、イベント会場など、様々な現場で活用されている無線通信機器です。0.01W以下という小さな出力で通信を行うため、免許や資格がなくても利用できる手軽さが特徴です。また、アウトドアやスポーツイベント、バイクツーリングなど、レジャーシーンでの活用も広がっています。
特定小電力トランシーバーの通信の仕組みは、大きく3つの方式に分かれています。最も一般的な「①単信方式」は、トランシーバーのボタンを押している間だけ音声を送信できる方式で、いわゆる「プッシュトートーク(PTT)」と呼ばれるものです。たとえば、飲食店で「テーブル3のオーダー、パスタ2点追加です」と厨房に連絡し、シェフが「了解、10分ほどお願いします」と応答するような使い方です。
他には、電話のように同時に会話ができる「②複信方式」があります。ただし、この方式を使う場合は制約があり、一度に通信できる台数は最大4~5台までに限られます。また、より強い10mWの出力を使用する場合は、1回の通話が3分で強制的に切断されるため、長時間の連続した会話には向いていません。さらに、電波の届く距離を伸ばすために中継器を使用する「③半複信方式」があります。この方式では、送信と受信で異なる周波数帯(421.575~421.9125MHz帯と440.025~440.3625MHz帯)を使い、合計27のチャンネルから選んで使用することができます。この中継器を使用することで、直接では電波が届かないような場所とも通信が可能になります。
通信距離は基本的に100~500mとされていますが、実際の距離は使用環境に大きく左右されます。たとえば、見通しの良い屋外での使用であれば100m以上の通信も安定しますが、建物内や市街地では大幅に距離が短くなります。工場などでは、機械設備や壁の影響で通信が途切れやすくなることもあります。
特定小電力トランシーバーのメリットと課題
特定小電力トランシーバーを選ぶ大きな理由の一つは、コストパフォーマンスの高さです。本体価格は2万円前後と、他の業務用無線機と比べて手頃な価格設定となっています。また、単三電池3本で最大80時間程度使用できる機種もあり、バッテリー持続時間の長さも特徴です。これは、出力が小さいことによる利点といえます。アウトドアやツーリングなどでも、この長時間駆動は大きな魅力となっています。
ただし、特定小電力トランシーバーにも課題はあります。最も顕著なのは通信の安定性です。建物の構造や環境によって通信距離が大きく変動することに加え、「ザザッ」というノイズが発生することも少なくありません。また、チャンネル数が限られているため、特に繁華街の店舗や大規模な商業施設では、近隣との混信が起こる可能性があります。さらに、悪意のある第三者が同じチャンネルで通信内容を傍受する可能性も否定できません。
なお、特定小電力トランシーバーには、製造時期によって2つの規格が存在します。2005年の無線設備規制改正を境に、それ以前に製造された「旧スプリアス規格」の機器と、それ以降の「新スプリアス規格」の機器に分かれています。スプリアスとは、本来の通信に使用する周波数以外の不要な電波のことで、他の機器への電波障害の原因となるため、電波法により制限が設けられています。
スプリアス規格の規制と今後の影響
電波は有限な資源であり、携帯電話、テレビ・ラジオ放送、救急無線、鉄道通信など、様々な用途で利用されています。近年、店舗のPOSシステムやセキュリティ機器、工場のIoTデバイスなど、ビジネスでのデータ通信量が増加しており、より効率的な電波利用が求められています。
このような背景から、特定小電力トランシーバーのうち、「旧スプリアス規格」の機器は、将来的に使用できなくなることが決まっています。当初の使用期限は2022年11月30日でしたが、新型コロナウイルスの影響により、現在は「当分の間」延長されている状況です。ただし、この延長措置は一時的なものであり、いずれは使用できなくなる可能性が高いため、新スプリアス規格の機器への移行を検討する必要があります。
なお、お使いの特定小電力トランシーバーが新旧どちらの規格に該当するかは、本体に記載された技術基準適合証明番号で確認できます。総務省の電波利用ホームページにある「技術基準適合証明等を受けた機器の検索」で、スプリアス規定の「旧規定」か「新規定」を確認することができます。
※ここで一点注意が必要なのは、2024年11月30日に使用期限を迎える「アナログ簡易無線局」とは異なる規制だという点です。アナログ簡易無線局の規制は350MHz帯と400MHz帯のアナログ無線が対象となりますが、これは特定小電力トランシーバーには適用されない別の規制となります。
このように、電波を取り巻く規制は複雑で、機器によって適用される規則が異なります。特定小電力トランシーバーを業務で使用されている場合は、お持ちの機器の規格を確認し、必要に応じて新しい規格の機器への移行を計画的に進めることをお勧めします。
現場で直面する通信の課題
実際の業務現場においても、特定小電力トランシーバーによるコミュニケーションには様々な課題が浮き彫りになっています。たとえば、大型商業施設で1階の売り場から4階の在庫管理室に連絡を取ろうとしても、電波が届かずに通信が途切れてしまうことがあります。また、工場では大型の機械設備や金属製の壁が電波を遮り、わずか数十メートルの距離でも通信が困難になることがあります。
作業現場特有の課題として、騒音の多い環境での使用が挙げられます。工事現場や製造ラインなどでは、周囲の機械音で相手の声が聞き取りにくく、重要な指示を何度も繰り返す必要が生じます。また、イベント会場などでは、来場者の前での大きな声での会話を避けたい場面でも、無線機を使用する際は必然的に声を出す必要があり、配慮が難しい状況が発生します。
記録性の欠如も大きな課題です。たとえば、小売店での在庫確認や注文内容の伝達、警備会社での巡回報告など、重要な情報が音声のみでやり取りされる場合、聞き漏らしや勘違いのリスクが高まります。また、後から内容を確認することができないため、シフト交代時の引き継ぎや、トラブル発生時の状況確認が困難です。
運用面では、バッテリー切れや機器の故障といった問題も無視できません。特に飲食店の繁忙時間帯や、長時間に及ぶイベント運営など、スタッフの交代が難しい場面でのバッテリー切れは、業務の大きな支障となります。また、厨房での水濡れや、工場での落下による故障など、使用環境による機器の劣化も課題となっています。これらの維持管理コストは、事業運営の負担となっています。
インカムアプリという新たな選択肢
近年、従来の特定小電力トランシーバーに代わる選択肢として、スマートフォンを活用したインカムアプリが注目を集めています。これは、普段使用しているスマートフォンをトランシーバーのように使用できるソリューションです。インターネット回線を利用するため、建物の階数や距離に関係なく、安定した通信が可能となります。
たとえば、大型商業施設であれば、地下の駐車場から屋上のイベントスペースまで、シームレスな連絡が可能です。工場では、製造ラインと品質管理室、在庫管理部門など、場所を問わず円滑な情報共有ができます。また、レジャー施設やイベント会場では、来場者の前での大きな声での会話を避けるため、テキストメッセージでの状況共有も可能です。
クラウドベースのシステムであるため、端末の追加や設定変更も柔軟に対応できます。災害時などの緊急事態においても、インターネット環境さえあれば、店舗内外問わず情報共有が可能です。また、定期的なソフトウェアアップデートにより、新しい機能や改善点が追加されていくことも、従来の無線機にはない利点といえます。
ボイット社のインカムアプリが提供する解決策
ボイット株式会社では、現場のコミュニケーション課題を解決するインカムアプリ「フィールドボイスインカム」を提供しています。その最大の特徴は、発話内容を音声とテキストの両方で振り返れるです。たとえば、小売店での商品の在庫確認や、イベント会場でのスタッフ間の連絡事項など、重要な情報を正確に記録し、後から確認することができます。また、シフト交代時には、不在時の状況を素早く把握できる点で、現場から高い評価を得ています。
また、テキスト入力による合成音声送信機能は、現場での新しいコミュニケーション手法として注目されています。たとえば、騒音の多い工場や建設現場でも、テキストで入力した内容を合成音声で明確に伝えることができます。飲食店では、来店客の前での大きな声での会話を避けながら、厨房とフロア間の連携をスムーズに行うことが可能です。
実際の導入実績として、すでに500施設以上で1万ID以上のユーザーにご利用いただいており、解約率は1%以下を維持しています。これは、一度導入すると手放せないインフラ的なサービスとして評価されている証と言えるでしょう。スタッフ間のコミュニケーションを円滑にし、業務効率の向上に貢献することで、現場に新しい活力をもたらしています。
まとめ
デジタル化が進む現代のビジネスシーンにおいて、コミュニケーションツールの選択は、今後ますます重要になってきます。特定小電力トランシーバーから新しいソリューションへの移行を検討する際は、単なる機器の置き換えではなく、業務全体の効率化や質の向上につながるツールとして、インカムアプリという選択肢をぜひご検討ください。