2024.12.26
知っておきたいインカムの仕組み – なぜ同時通話が可能なのか
医療現場や介護施設、ホテルなど、チームでの連携が不可欠な現場では、スピーディーで確実なコミュニケーションが求められます。そのため、多くの現場では複数人での同時通話を可能にするインカムが活用されています。電話やメッセージアプリでは実現できないこの便利な機能は、一体どのような仕組みで実現されているのでしょうか。本コラムでは、インカムの基本的な仕組みから最新のスマートフォンアプリまで、その通信技術の詳細について解説していきます。
インカムの基本的な仕組み
私たちが日常的に使用している電話やメッセージアプリでも、複数人での会話は可能です。しかし、インカムには現場のコミュニケーションに特化した独自の特徴があります。
従来から業務用の無線通信として使われてきたトランシーバーは「半二重通信」という方式を採用しています。これは一度に「送信」か「受信」のどちらか片方しかできない仕組みです。そのため、トランシーバーでは自分が話している間は相手の声を聞くことができず、「どうぞ」という合図で話者を切り替える必要がありました。
一方、インカムでは「全二重通信」という技術により、送信と受信を同時に行うことができます。これは分かりやすく例えると、2車線道路のような仕組みです。上り車線と下り車線が分かれているように、インカムでも音声の送信と受信にそれぞれ専用の「通路」が確保されているため、複数の人が同時に会話に参加できるのです。
さらにインカムでは、常時通信状態を維持しながらも、ボタンを押した時だけ音声が送信される仕組み(Push-to-Talk:プッシュ トゥ トーク)を採用しています。例えば、ホテルのフロント担当者がボタンを押して「614号室のお客様がチェックインされました」と発信すると、その情報は客室清掃スタッフやベルスタッフなど、インカムを使用している全員に即座に共有されます。グループ通話のように常に全員の音声が送信されるわけではないため、周囲の雑音や不要な会話に邪魔されることなく、必要な情報だけを、必要なタイミングで共有できるのです。
このように、インカムは全二重通信とPush-to-Talkという特徴を組み合わせることで、現場での効率的な情報共有を実現しています。この基本的な仕組みは、従来のアナログ無線からデジタル無線、そして現代のIPネットワークを活用したシステムへと進化を遂げてきました。次のセクションでは、それぞれの通信方式の特徴について見ていきましょう。
従来型インカムの通信方式
従来型のインカムは、主にアナログ無線方式とデジタル無線方式の2種類に大別されます。これらの方式は、音声をクリアに伝えられる一方で、導入や運用に関して多くの課題を抱えていました。
アナログ無線方式は、音声を電波に直接乗せて送受信する方式です。例えるなら、声の高低や大きさをそのまま波として伝える、いわば「空気の振動を電波に置き換えた」ような仕組みです。この方式のメリットは、音声の自然な抑揚がそのまま伝わることです。しかし、建物の構造材による電波の減衰が起こりやすく、例えばホテルの地下厨房と最上階のレストランの間では途切れ途切れの通信になってしまうことがありました。また、エレベーターの近くやモーターなどの電気機器の周辺では、雑音が入りやすいという欠点もありました。
これらの課題を克服するために登場したのが、デジタル無線方式です。デジタル無線では、音声をデジタルデータに変換して送受信するため、ノイズの影響を受けにくく、より安定した通信が可能になりました。例えば、ホテルの広いフロアや、建物の上層階と地下の間でも、届く範囲内であれば一定品質での会話が可能です。
しかし、これらの従来型インカムには、通信品質以外にも大きな課題がありました。まず、専用の無線機器が必要なため、導入時の初期費用が高額になります。さらに、無線局の免許申請が必要なケースも多く、その場合は申請から許可がおりるまでに時間がかかります。特に複数拠点での導入となると、拠点ごとに免許申請が必要になるなど、手続きが煩雑になってしまいます。
また、一度導入しても、システムの拡張や他の業務システムとの連携が難しく、通信ログの保存や音声のテキスト化といった現代のビジネスに求められる機能を追加することも容易ではありませんでした。
このような従来型インカムの課題を解決する手段として登場したのが、次にご説明するIPネットワークを活用したインカムシステムです。
IPネットワークを活用したインカムシステム
従来型インカムの課題を解決する手段として登場したのが、IPネットワークを活用したインカムシステムです。これは、従来のアナログやデジタルの無線方式とは全く異なる通信方式を採用しています。
アナログ無線が音声を電波に直接乗せ、デジタル無線が音声をデジタル化して電波で送るのに対し、IPネットワーク方式では音声をデジタル化した後、さらにインターネットで使用される通信規格(IP)に従ってパケットという単位に分割します。これらのパケットは、無線ではなくインターネット回線を通じてサーバーに送られ、サーバーから他の利用者に配信される仕組みです。
つまり、IP無線機は特定の周波数帯の電波を使用する従来型とは異なり、WiFiや携帯電話網などの既存のネットワークインフラを活用しています。これにより、専用の無線機や免許申請が不要になり、導入のハードルが大きく下がりました。
このIPネットワークを活用した方式の特徴は以下の3点です。まず、建物の構造や距離の制限を大きく緩和できます。電波の届く範囲ではなく、インターネットに接続できる環境があれば通信が可能なため、本社ビルと支社、あるいは離れた場所にある倉庫との間でもスムーズなコミュニケーションができます。
次に、音声品質の安定性です。デジタル無線と同様にデジタルデータとして送受信するため、アナログ無線のような電気的なノイズの影響を受けにくく、さらにインターネット回線の一時的な遅延や途切れに対してもデータの再送機能などで対応できます。
最後に、システムの拡張性です。新しい拠点を追加する際も、インターネット環境さえあれば、特別な設備投資なしで即座にネットワークに組み込むことが可能です。また、暗号化技術による通信の保護や、通信ログの保存といった機能も、ソフトウェアの設定で簡単に実現できます。
このように、IPネットワークを活用したインカムシステムは、従来型とは全く異なる通信技術を採用することで、より柔軟で拡張性の高いコミュニケーション基盤を提供しています。そして、この技術を基盤として、IP無線機とスマホアプリ型インカムが生まれ、それぞれの特徴を活かした展開が可能となっています。
スマホアプリ型インカムの独自の特徴
IP無線機と同じ通信技術を基盤としながら、当社のスマホアプリ型インカム「フィールドボイスインカム」は、現場のニーズに応える独自の特徴を備えています。最大の特徴は、専用機器を用意する必要がなく、既存のスマートフォンやタブレット、パソコンをインカムとして利用できる点です。これにより、導入時のコストを大幅に抑えることができます。
また、発話内容は生音声とテキストの両方で保存され、チャット形式で確認することができます。テキストに変換された内容に誤変換があった場合でも、生音声で再生することで正確な内容を確認できるため、例えば休憩明けでもすぐに現場の状況をキャッチアップすることが可能です。
さらに、従来型のアナログ無線機では届かない距離や高さであっても、インターネットにつながる環境があれば通信が可能です。例えば、本館と別館、地下厨房と最上階のレストラン、さらには遠隔地にある複数の拠点間でも、シームレスなコミュニケーションを実現できます。これは先ほど説明したIPネットワークの特徴を活かしたもので、スマートフォンだけでなく、パソコンやタブレットなど、インターネットに接続できる様々なデバイスから会話に参加できます。
特に注目すべき点は、外部システムとの連携の柔軟さです。例えば医療現場では、ナースコールシステムと連携することで、誰がナースコールに対応するのかをリアルタイムで共有でき、スタッフ間の無駄な動きを削減することができます。このように、現場の状況に応じた最適なシステム連携を実現し、業務効率の向上に貢献しています。
当社インカムアプリは実際に500施設以上での導入実績があり、1万ID以上のユーザーにご利用いただいています。解約率は1%以下と、一度導入いただくと手放せないサービスとして高い評価をいただいております。
まとめ
インカムは、アナログ無線から始まり、デジタル無線を経て、現在ではIPネットワークを活用したシステムへと進化してきました。この進化により、通信品質の向上だけでなく、導入のしやすさや拡張性も大きく改善されています。現代の現場に合ったインカムを選ぶ際は、必要な通信範囲を確保できることはもちろん、録音やテキスト変換といった機能の必要性、そして既存システムとの連携可能性まで考慮することで、より効果的な活用が可能となります。
インカムアプリに関して、より詳しい情報や導入に関するご相談は、お気軽に弊社専門スタッフまでお問い合わせください。無料トライアルも実施しておりますので、実際の使用感を体験いただくことも可能です。現場の課題に応じた最適なソリューションをご提案させていただきます。