導入の背景
「地域医療・介護・福祉を支えるにはコミュニケーションが重要な鍵に」
「超少子超高齢時代を迎えた今、医療の領域は統合され、より広域となっていきます。一方で、福祉領域はより狭まっていく傾向にあり、地域でカバーすべき課題が増えてくる。生涯発達に貢献できる地域インフラをつくって、医療だけでは解決できない問題を乗り越えたいと考え、『まんかい』を設立しました」とは、医療法人社団青山会・理事長の田場隆介氏の言葉だ。
田場医院が入る複合医療施設「まんかい」は、田場医院を中心に、児童発達支援事業「ぞうさんの足音」、企業主導型保育事業「そらいろ」、病児・病後保育「さんだワラビーズ」、メディカルフィットネス「まんかいFiT」、運動・リハビリテーション「墾(ひらく)」、短時間通所リハビリテーション「朝(あした)」、居宅介護支援事業所「まんかいプラン」、の8つの機能を備えた総合健康施設だ。
その中で、小児科・内科・形成外科・皮膚科のクリニックとして、地域医療と施設利用者の健康管理を担っているのが、田場医院だ。
導入の経緯
「情報共有のロスを減らし、確実にコミュニケーションを取りたい」
「患者さん中心の医療を提供するだけでなく、施設利用者さんに対しても心を込めたおもてなしを心がけています。当施設では、患者さんや利用者さんの情報をスタッフ間できちんと共有し、適切なサービスをご提供するよう努めています。しかし、以前はコミュニケーションを取る方法が対面か内線電話に限られていたので、ときには情報をリアルタイムで共有できないこともあり課題を感じていました」と院長の田場史子氏は当時のもどかしさを語る。
「急ぎの要件は、スタッフが走って直接伝えに行くということが常態化していました。しかし、それでは時間も人手もかかりますし、ロスも少なくありません。また電話の場合は一対一になるため、他のスタッフに院内の情報がリアルタイムに共有されない問題も有りました」と振り返るのは形成外科診療部リーダーの佐伯安代氏だ。
この状況を改善すべく従来型のインカムを試験導入したものの、実際に使ってみると、無線が届きにくいエリアでは通信障害が発生し、「音が聞こえない」、「音が途切れる」というトラブルが頻発。緊急時に患者や利用者に対して適切に対応できないことが危惧され、本番運用には至らなかったという。
更にコロナ禍となり、田場医院でも発熱外来を開始したが、駐車場と二階の医院受付、一階の発熱者受付の双方向コミュニケーションが新たに大きな課題として浮上。そこで田場医院の理事長 田場隆介氏がテレビ番組で目にしたのが、老舗旅館 元湯 陣屋で活用され、大きな効果をあげているというVoytのフィールドボイスインカムだった。
導入のポイント
「離れていてもリアルタイムで確実な情報伝達が実現可能」
フィールドボイスインカムは、Voytの音声認識・音声合成技術を利用して会話を音声認識し、音声と文字(テキスト)でリアルタイムに情報共有できるスマートフォンのアプリケーションだ。スマートフォンを利用することで、従来型のインカムと異なり、離れた複数のエリアでリアルタイムにコミュニケーションすることができる。音声はテキストとして記録されるため、他の業務対応中に聞き逃した連絡を後で確認できることも大きなメリットだ。
また、従来型のインカムで問題だった無線が届かず使えないという心配がなくなり、まんかい施設内だけではなく、送迎車との連携といったより広いエリアで情報共有できる点も評価された。
「これは使える」と直感した田場隆介理事長は、さっそく第一電子株式会社に相談したところ、フィールドボイスインカムを2021年1月に導入した。
導入の効果
「チームでの連携が広がり、より多くの患者や利用者への適切な対応が可能に」
発熱外来対応にまず導入したフィールドボイスインカムは、現在は形成外科のスタッフにも利用を広げている。
現場で日々活用している佐伯氏は導入以前を振り返る。「私自身は常に診察室で院長のそばにいるようにしているのですが、以前だとちょっと部屋を離れたときに起こったことがわからなくなる、全体を把握した上での指示が出せない、そういった問題がこのインカムを持つことで解決できました。今ではなくてはならないものになっています。メリットしかないですね。」
また、固定電話は設置されている場所が診察室内などに限られていたため、受付からの連絡や外線、薬局からの問い合わせ電話などにも診察中の医師が応対せざるを得ないこともあったが、フィールドボイスインカム導入後は、どこにいてもスタッフ間で情報共有し、適切な担当者が効率的に対応できるようになった。「発言がテキストでも記録が残るので、相手の状況に関わらず連絡を発話しておけば、確実に伝えられる。忙しい私たちにはなくてはならないツールです」と、佐伯氏は導入による変化を高く評価する。
さらに、コロナ禍の対応として、「小児科や発熱外来などは、自家用車の中で順番を待つ患者さんも少なくありません。その場合も、フィールドボイスインカムは病院の外でも使えるため、2階の医院受付と1階の発熱外来受付、外の駐車場との連絡がリアルタイムでできるようになり、今では都度ご案内が可能になり待ち時間の削減につながっています」と、佐伯氏。さらに、「情報把握やスタッフ同士の密な連携が取りやすく、効率よく動けるようになったので、スタッフが業務により集中できるようになりました。」また、他の業務をしながら的確に指示を出したり、スタッフがより自発的に行動することを心がけられるようになったりと、スタッフの動き方が大きく変わったという。
フィールドボイスインカムによる新たなコミュニケーションは、スタッフの仕事に対する姿勢にも変化をもたらした。スタッフ間でやりとりをする際に、インカムから伝わる声の様子から相手の状況や状態まで感じ取ることができるため、スタッフ同士で協力し、助け合おうとする気持ちがさらに強まった。また、会話内容をあとから見返すこともできるため、行動をのちに振り返ることでスキルアップやモチベーションアップの効果もあり、スタッフの定着率も高まった。チーム力の向上にもフィールドボイスインカムが寄与しているという。
将来の展望
IoTとの連携も視野に、さらなる「患者さんのために」できること
フィールドボイスインカムで会話を「見える化」し、そのデータを蓄積、分析することで、感覚的に受け止めていた課題や業務負荷が明確になり、改善すべき点も自ずと見えてくる。またスタッフの実態に即した評価が可能となる。
「フィールドボイスインカムで情報のやり取りを可視化すれば、情報のハブを担うスタッフや各スタッフの業務の状況が明確になります。これは客観的なデータなので、人事評価などにも活用できるかもしれません。リーダーとなるスタッフの育成にも役立てられるなど、これからいろいろと活用できる可能性が広がりそうです」と院長の田場史子氏は期待を高めている。
また、フィールドボイスインカムは、IoT機器からの情報と組み合わせることで、新たな情報活用の可能性も生まれる。たとえば、駐車場や受付にカメラを設置し、それらのデータを元に患者や施設利用者の来院を知らせる、カルテとの連携といったことも考えられる。将来的にIoTと連携することで、施設内業務のさらなる効率アップが患者、利用者の方へのサービス向上にもつながると考えているという。
フィールドボイスインカムの活用で円滑な医院運営のためのコミュニケーション環境を整備した同医院。今後は、会話の「見える化」やデータ分析、IoT機器との連携も視野に、業務効率とサービスをさらに向上させ、今後も一層地域の医療と生涯発達のためになくてはならない存在として地域に貢献していくだろう。
※この記事の内容は2022年1月に取材した内容を元に構成しています。記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
<CUSTOMER PROFILE>
名称:医療法人社団 青山会 田場医院
設立:2018年4月
代表者:院長 田場史子
所在地:兵庫県三田市すずかけ台1丁目12番地
内科・小児科 形成外科・皮膚科・美容皮膚科
URL:https://www.taba-shonika.jp/