2024.12.19
デジタル無線機とは?アナログ無線廃止後の選択肢を完全解説
2024年11月30日をもって、400MHz帯と350MHz帯のアナログ無線機の使用が禁止されたことから、これらの周波数帯を利用している企業や組織では、新たな通信手段への移行が迫られています。本コラムでは、デジタル無線機の基本的な仕組みから、アナログ無線との違い、さらには新たな選択肢まで、現場のコミュニケーションに最適な通信手段の選び方を詳しく解説していきます。
デジタル無線とは?
「無線機」とは、無線通信を行うための機器を指します。無線通信は主に電波を利用して行う電気通信で、ケーブルを使用しない通信方法です。私たちの身近にある無線通信には、ラジオ放送やテレビ放送、携帯電話、無線LAN、Wi-Fi、Bluetoothなどがあります。無線機は機能によって受信機、送信機、そしてその両方の機能を持つトランシーバーに分類されます。
デジタル無線は、2008年に総務省による簡易無線のデジタル化推進政策がスタートするまで、基本的には免許保持者しか利用できないアナログ無線機が主流でした。この政策転換の背景には、電波の有効活用という社会的課題がありました。国内の周波数帯はすでに多くの通信に割り振られており、新たな周波数帯の確保が困難な状況にあったのです。デジタル無線機は、通信で占有する周波数帯幅が少なく、アナログ無線機と比べて電波をより効率的に使用できるため、この課題解決の切り札として期待されました。
デジタル無線機の最大の特徴は、高品質な通信を実現できる点です。アナログ無線機が音をまとめて変調してそのまま送信するのに対し、デジタル無線機は音声を「0」と「1」のデジタルデータに圧縮して送信します。この方式により、工事現場のような騒音の多い環境でも、ノイズを除去してクリアな音声での通話が可能となります。製造工場の機械音の中でも、作業指示や緊急連絡を明確に伝えることができ、作業効率と安全性の向上につながっています。
また、デジタル無線はセキュリティ面でも優れています。アナログ無線では混信や傍受のリスクがありましたが、デジタル無線では「秘話モード」や「ユーザーコード」を利用することで、高いレベルでの通信の秘匿性を確保できます。医療機関での患者情報のやり取りや、警備会社での機密情報の伝達など、セキュリティが重要視される現場でも安心して使用できます。
通信可能距離についても、デジタル無線は独自の特性を持っています。デジタル信号は直線的に伝搬する性質があり、見通しの良い環境では、アナログ無線と比べてより遠距離での通信が可能です。ただし、建物の陰や地下など障害物が多い環境では、アナログ無線のほうが電波が届きやすい場合もあり、使用環境に応じた選択が必要となります。
電波法改正に伴う移行の流れ
国は電波の有効利用を促進するため、アナログ無線機からデジタル無線機への移行を進めています。この政策に基づき、350MHz帯および400MHz帯の周波数を使用するアナログ方式の簡易無線局については、2024年11月30日をもって利用が禁止されました。この期限以降にこれらのアナログ無線機から電波を発した場合は電波法違反となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となる可能性があります。
参照)総務省:簡易無線局のデジタル化について
参照)総務省:アナログ通信方式の周波数が発射可能な簡易無線局に係る再免許等について
このような規制強化の背景には、電波という有限な資源をより効率的に活用していく必要性があります。現代社会では、携帯電話やスマートフォン、無線LANなど、様々な機器が電波を利用しており、新たなデジタルサービスの登場とともに、その需要は年々増加しています。デジタル方式は、アナログ方式と比べて同じ周波数帯でより多くの通信を行うことができるため、限られた電波資源の有効活用につながります。
移行にあたって、まず確認すべきは使用している無線機の種類です。使用できなくなるのは、アナログ方式の350MHz帯および400MHz帯の周波数を用いた無線機です。注意が必要なのは、アナログ方式とデジタル方式の両方が使用可能なデュアル方式の簡易無線局についても、アナログ方式の周波数が該当する場合は対応が必要となる点です。例えば、建設現場で使用している無線機が該当周波数帯のデュアル方式である場合、アナログ方式の周波数を発射できないように改修する必要があります。
具体的な対応方法は、大きく分けて次の3つのパターンがあります。1つ目は、無線局を完全に廃止する方法です。これは使用頻度が低く、代替手段が既に確立している場合に選択されます。2つ目は、デジタル方式の簡易無線局への買い替えです。従来のアナログ無線機と同様の使用感を重視する場合に適しています。3つ目は、後述するIP無線やスマートフォンを活用したインカムアプリなど、新しい通信手段への移行です。これは、より多機能な通信環境を求める現場に適しています。
また、移行にあたっては必要な手続きも忘れてはいけません。無線局を廃止する場合は、総合通信局への廃止届けが必要です。デジタル無線機に買い替える場合も、新規の無線局開設申請が必要となります。デュアル方式の無線機を改修する場合は、技術基準適合証明を受けた業者による作業が必要です。いずれの場合も、期限に余裕を持って対応を進めることが重要です。
移行に際しては、コストだけでなく、実際の使用環境や業務の特性を十分に考慮する必要があります。例えば、地下や建物の死角が多い環境では通信の安定性を、機密情報を扱う現場ではセキュリティ機能を、災害時の利用を想定する場合は電源の確保のしやすさを、それぞれ重視して選定を行うことが推奨されます。
IP無線・インカムアプリという選択肢
アナログ無線からの移行を検討する中で、従来型のデジタル無線機に加えて、IP無線やインカムアプリという新たな選択肢も注目を集めています。これらは、インターネット回線を利用して通信を行う次世代型の通信手段です。
IP無線の最大の特徴は、その広範な通信エリアにあります。携帯電話のネットワークを利用するため、電波が届く場所であれば、全国どこでも通信が可能です。例えば、複数の営業所を持つ運送会社では、従来は地域ごとに異なる無線機を使用する必要がありましたが、IP無線の導入により、全国の営業所間でシームレスな通信が実現しています。
また、IP無線は従来の無線機と比べて導入がシンプルです。電波法に基づく免許や資格が不要なため、すぐに利用を開始できます。機器自体も比較的軽量で、従来の無線機が250g前後あるのに対し、IP無線は一般的なスマートフォンと同程度の重さです。長時間の携帯を必要とする警備員や店舗スタッフからは、この軽量性が高く評価されています。
しかし、IP無線にも考慮すべき点があります。通信費用は月額制となるため、長期的なコスト計算が必要です。また、携帯電話の電波が届きにくい場所では通信障害が発生する可能性があります。地下駐車場や山間部での使用を想定する場合は、事前の通信環境調査が推奨されます。
さらに進化した選択肢として、スマートフォンを活用したインカムアプリがあります。例えば、音声のテキスト化機能を備えた当社アプリ「フィールドボイスインカム」では、通話内容を自動的に文字に変換して記録することができます。医療現場では、患者の容態に関する指示内容を正確に記録・共有できるようになり、医療安全の向上につながっています。
インカムアプリの中には、外部システムとの連携も可能なものがあります。当社の例では、病院施設内でナースコールシステムと連携させることで、客室からの呼び出しに対してスタッフ間で効率的な対応が可能になりました。誰がどの呼び出しに対応するのか、リアルタイムで共有できることで、サービス品質の向上とスタッフの業務負担軽減を同時に実現しています。
特に注目すべきは、これらの新しいソリューションがもたらす業務改革の可能性です。単なる通話手段としてだけでなく、業務記録の自動化、情報共有の効率化、さらにはデータ分析による業務改善まで、現場のDXを推進する基盤として機能し始めています。
現場に最適な通信手段の選び方
ここまで、デジタル無線機の特徴から、電波法改正への対応、さらにはIP無線やインカムアプリまで、様々な選択肢について解説してきました。最後に、現場に最適な通信手段を選ぶ際の考え方をまとめていきましょう。
通信手段の選定で最も重要なのは、現場の実態に即した判断です。例えば、製造現場では、機械音の中でもクリアな音声が必要不可欠です。この場合、ノイズ除去性能に優れたデジタル無線機が適しているでしょう。一方、病院のように建物内の通信が主体となる環境では、インターネット回線を活用したインカムアプリが、より柔軟な運用を可能にします。
また、今後の業務展開も重要な判断材料となります。現在の通信ニーズだけでなく、将来的なデジタル化やシステム連携の可能性も考慮に入れる必要があります。たとえば、音声通話だけでなく、業務記録の電子化や他システムとの連携を検討している場合、テキスト化機能や外部連携機能を持つインカムアプリが、長期的には有利な選択となるかもしれません。
コスト面では、初期投資と運用コストの両面から検討が必要です。デジタル無線機は機器の購入費用は高額になりますが、ランニングコストは比較的抑えられます。一方、IP無線やインカムアプリは、初期費用は抑えられるものの、月額の通信費が発生します。使用期間や利用人数を考慮した総合的な費用対効果の算出が重要です。
さらに、セキュリティ要件も重要な判断基準となります。機密情報を扱う現場では、暗号化機能の有無や、通信記録の管理方法なども詳細に確認する必要があります。特に、医療機関や金融機関など、高度な情報セキュリティが求められる環境では、導入前に十分な検証が欠かせません。
最後に強調したいのは、実際の使用環境でのテストの重要性です。カタログスペックだけでは判断できない通信品質や操作性の違いがあります。可能な限り実機を使用した検証期間を設け、現場の声を収集することをお勧めします。多くのメーカーやサービス提供事業者が、試験導入や実地テストのプログラムを用意しています。これらを活用することで、より確実な判断が可能となるでしょう。
アナログ無線からの移行は、単なる機器の置き換えではなく、業務改善の機会としても捉えることができます。現場のニーズを丁寧に把握し、将来を見据えた選択をすることで、コミュニケーションの質を高め、業務効率の向上につなげることが可能です。
まとめ
通信手段の選択において重要なのは、現場の特性に合わせた適切な判断です。デジタル無線機は、高いノイズ除去性能と通信品質、優れた秘匿性を備え、特に建設現場や製造現場など、クリアな音声が必要な環境で力を発揮します。一方、IP無線やインカムアプリは、広範な通信エリアと追加機能の充実が特徴で、医療機関や小売店舗など、システム連携や情報管理が重要な現場での活用が進んでいます。
移行にあたっては、現在の業務ニーズだけでなく、将来的なデジタル化や業務効率化も視野に入れた検討が推奨されます。また、導入前の実地テストを通じて、実際の使用環境での性能や操作性を確認することも、適切な選択のために重要です。
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